2011年07月18日

【社会と職業とアートと】 第2回 働く人のための法律ってアーティストも保護してくれるの?

   
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働く人のための法律ってアーティストも保護してくれるの?



前回は「職業としてのアーティスト」について考えてみました。
今回は少し踏み込んで法律の話をしてみましょう。


● 労働法って何?
  
まず「職業」というのは、そこから収入を得て生活の基盤を成り立たせていく為のもの。
つまり働けなくなる=生活出来なくなるというのが一般的な考えだと思います。

本当にそうなってしまったら大変!
なので、そういったリスクを回避するために、働く人を守るための法律が存在します。

中学・高校の公民で労働基準法・労働組合法・労働関係調整法の労働三法なんて
習ったんじゃないでしょうか?

労働基準法は、
「労働者が人間らしい安定した生活を出来る」ように
労働時間や賃金等に関して規定した法律で、

労働組合法は労使間の対等を実現する、
すなわち「働く側と雇う側が対等な立場で交渉出来る」ようにするための法律。

その他いろいろな関連する法律をまとめて一般的に労働法と呼びます。


● 労働法が適用されるのはどんな人?
   
さて、この労働法って誰に対して適用されるものだと思います? 

労働法=働く人のための法律って考えたら、
何らかの職業についている人にはみんな適用されそうな気もしますよね。

でも実際は労働法の適用対象、つまり労働法が保護している人というのは、
「労働者」に限られます。

「じゃ、労働者って具体的にどんな人のことを指すの?」
と疑問に思う人もいるかと思います。

「労働者」って響きが数年前に流行った「蟹工船」とか思い出して
なんか暗くて古臭いイメージもありますよね。


労働基準法9条は
「労働者とは職業の種類を問わず事業または事務所に使用される者で
賃金を支払われる者をいう。」としています。

平たく言えば、「誰かに使われて働いていて、
その雇い主から賃金をもらっている人」のこと。

雇う側と雇われる側に「使う・使われる」の関係があるか、
雇われる方は相手の命令に従わなければいけない関係にあるかといったところで
労働者であるかを判断します。

流石にこれだけではざっくりしすぎなので、
裁判等では事例によっていろいろと細かい基準があるのですが、

問題は「アーティストは労働者か?」ってこと。

残念ながら裁判例などを見ると、
アーティストは契約の相手側に使われ、命令される立場ではないと判断され、
労働者性が否定されるケースが少なくないようです。

そうなると労働法の適用対象と認められず、法の保護が受けられなくなってしまいます。


● 労働法が保護しない場合がある理由
   
そもそも労働法というものが存在する理由というのは、
お金を払って雇う側の人間(使用者と言います)に比べて「労働者」は弱い立場にあり、
法が保護しないと一方的に不利益な仕事内容を押し付けられる恐れがあるからです。

極端な話「月給5万円で1日15時間働け!そうしないとクビだ!!」なんて言われたとして
「そんなの無理だけど仕事がなくなったら困る」と思って
労働者がその内容で働いたりすることを法律によって防ぐことができる訳です。

一方で法律はお金を払われる側にも裁量権のある場合は、
対等な関係で契約が結べる為、特別の介入の必要がないと考えています。

つまり、大工さんは家を建てるという仕事の代わりに依頼主からお金をもらいますが、
一日何時間働き休憩はいつ取るかとか、報酬はどれくらいか、
どのような道具を使ってどう家を建てるかとかいった仕事の内容についいて、
大工さんの方にも独立して決定する権限があり対等な立場で交渉することができる為、
法律が特に保護する必要はないと考えているのです。

この違いは、大工さんと依頼主との契約が「請負」(民法632条)にあたり
労働法の対象となる「雇用」とは別の契約にあたるためなのですが、

アーティストの皆さんが結んでいる契約というのも多くの場合、
大工さんと同じ請負となるかと思われます。

しかし、実際のところ請負契約において
依頼主と請負側には必ず対等な関係があると言い切れるのでしょうか?

皆さんはお仕事をする時、
契約の内容を自分である程度自由に決められる立場にありますか?

もしそうでないとしたら、
特にパフォーマーの方はいろいろと困難を抱えているのではないでしょうか?

例えば劇場でダンスの公演中に怪我をしたとします。
原因は劇場側が設備の点検を怠ったことにあったとしても、

劇場と自分の間には雇用契約はないから、
労働法が適用されず労災は認められない=自費で治療という結果になってしまいます。辛い…。

(民法709条で損害賠償請求は理論的には可能なのですが、
仕事相手と法廷で争うなんて次の仕事が来なくなるのでは?という不安も感じますよね。)

労働者と認められない為に労働法の保護はなく、
一方で対等な契約当事者としての決定権もないとしたら、
実質的にアーティストの生活を守る法律はなくなってしまいます。

ここで、現状では仕方ないから諦めろ!とは言いません。
リスクを回避しアーティストが安心して働ける仕組み作りを考えていきたいというのが
この連載の趣旨です。

そこで次回からは、まず現状におけるリスクについて考えていきたいと思います。

    
    
くまころ
   
   
   
posted by ジャンク派 at 14:58 | Comment(63) | 【社会と職業とアートと】